先日、肺がん治療薬のイレッサの副作用による死亡に対しての国、製薬会社の責任を問うイレッサ訴訟の判決が最高裁で出ました。原告敗訴の判決でした。
イレッサはイギリスの製薬会社が開発した薬ですが、薬の発売に時間がかかりすぎると批判されていた日本で、申請から承認までわずか半年(通常は2~3年)で、しかも日本で世界に先駆けて発売された肺がん治療薬でした。
分子標的薬という種類でがんだけを標的として正常細胞を攻撃しないため、副作用が少ないというふれこみでした。手術不能で治療困難な状態であった患者さんや、その主治医はいっせいにその薬の効果に期待しましたが、間質性肺炎という重症な副作用が予想よりも多く発生してしまいました。
数千例の使用例を分析すると、非常に効果の出ている患者さんも多数いました。がん細胞がある遺伝子変異をしているときにこの薬が最大効果があることがわかってきたのです。今はこの遺伝子変異のある患者さんのみに投与が許可されるように投与条件が設けられています。
肺炎の副作用が出てしまって亡くなった患者さんの遺族が原告のほとんどですが、どうせ肺がんで死ぬのに副作用で訴えるとはどういうことだと誹謗中傷を受けたようです。
数日前に一人の患者さんが僕に会いにクリニックに来てくれました。この方は昨年11月息切れがひどく受診され、レントゲンで胸に水がたまっており、結局肺がんの末期と診断されました。
しかし、がんに遺伝子変異があり、イレッサを使用したところ、劇的に腫瘍が小さくなり、現在は家で普通の生活をされています。副作用もまったく出ていないとのこと。とてもがんの末期と診断されて半年たつとは思えないほどお元気だったのです。イレッサの効果を目の当たりにしました。
薬に副作用はつきものではあるんですが、確かに初期に、製薬会社の宣伝にのせられて、十分な副作用説明をおこたった医師もいたと思います。日本で人体実験のようなことが行われてしまったことは、結果的に効果の出やすい投与法がそれによって確立されたとしても、やはり検証し、反省すべきところは反省すべきなのではないでしょうか。